一度は転職をあきらめ、起業も上手くいかなかった、秋田泰志さん。しかし、40歳を過ぎて、自衛隊で身に付けたスキルを活かせる民間企業と出会われました。転職活動を振り返り、「自衛隊の経験を民間に伝える自己PR」と「自衛隊を理解しているエージェント」の重要性を実感されています。
【プロフィール】
秋田泰志:防衛大卒業後、陸上自衛隊に入隊して武器科に配属。幹部初級課程を終えてから、東京工業大学の大学院で博士号を取得して1等陸尉に昇任。その後は、陸上装備研究所で技術試験などを担当した。2022年に自衛隊を離れて起業。現在は、地方創生やインバウンドのマーケティングコンサルティング事業を展開する「株式会社Beyond」に勤務。
古川勇気:2024年7月にBallista入社。8月からスタートした「Catapult」を担当。防衛大卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。
自由度が高い組織に適性 民間への転職活動開始
古川:自衛隊では主に、どのようなキャリアを歩みましたか?
秋田:私は、かなり特殊な経歴です。最初は、武器科に所属して、大分県の玖珠にある戦車整備部隊に配属されました。幹部初級課程(BOC)で大学院へ進む道を打診され、BOC卒業後は、東京工業大学の大学院に入りました。そのままマスター、ドクターの課程で5年間過ごしたので、部隊経験は5か月ほどと短かったです。大学院卒業後は、相模原にある陸上装備研究所で主に技術試験を担当しました。装備品の機能を1つ1つ試験し、課題や問題を解決していく部署です。将来的に必要になりそうな技術に先行投資して研究する業務もありました。その後は、陸上幕僚監部人事部の補充係や幹部学校の教官などを経験しました。
古川:20年近く自衛隊に所属して経験を重ねていく中で、なぜ民間企業に転職しようと考えたのでしょうか?
秋田:自分の性格的に、自衛隊にずっと居続けるのは難しいのかなと早い段階から漠然と思っていました。私にとって自衛隊は、組織として大きすぎる面があって、自分の役割を上手く果たせないもどかしさがありました。小回りの利く組織で自由度高く、自分の考え方が反映される働き方をしてみたい、という思いが強くなり、民間企業への転職活動を始めました。
転職活動をするも自己分析や企業研究不足で失敗
古川:防衛大から自衛隊という進路の中では、就職や転職に関する情報に触れる機会が少ないと思います。どのように転職活動を始めましたか?
秋田:まずは、自分が持っている能力を棚卸しました。自衛隊時代の経験として「研究開発」と「人事・組織改編」の2つが民間企業でも活かせると考えました。幅広い職種を調べていく中で、人事組織コンサルティングに興味を持ちました。30代後半で初めて行った転職活動は分からないことが多く、大手エージェントに登録しました。自衛隊で働きながら転職活動を続けて、10社くらいにエントリーしましたが、結果的に内定には至りませんでした。
古川:当時を振り返って、どんなところに転職活動が上手くいかなかった要因があると考えていますか?
秋田:自己分析や企業研究が足りていなかったところが原因です。特に苦労したのは、自衛隊で身に付けた知識や経験を民間企業に伝える“翻訳”でしたね。民間企業では、自衛隊の仕事をイメージするのが難しい部分があります。エージェントも同じで、私が自衛隊時代の話をしても上手く理解してもらえませんでした。民間企業に入社したら自衛隊時代の経験をどのように活かせるのかを、より分かりやすく説明できていれば、転職活動の結果は違っていたと思います。Catapultのような自衛隊出身者がキャリアパートーナーとして伴走してくれるサービスがあったら心強かったですし、そういったサービスを検索することさえ当時は思い付きませんでした。
起業は苦労の連続でも人脈が生きて転職に成功
古川:転職活動が上手くいかず、次は起業の道を選ばれたんですよね。転職以上にハードルが高いように感じますが、不安はありませんでしたか?
秋田:転職をあきらめて、自衛隊勤務を3年くらい続けました。でも、社会の課題を直接解決する仕事に就く人生を送る方が後悔しないという気持ちが抑えられず、起業を決断しました。私は日本酒が好きで、色んな酒蔵さんのお話を伺う機会がありました。その中で、新型コロナの影響もあって事業を続けられなくなる酒蔵さんが増えていることを知りました。日本の伝統が衰退していく状況に危機感を抱き、独立して力になろうと考えました。「何とかなるだろう」と起業を楽観的に捉えていたので、そこまで不安は大きくなかったですね。
古川:日本酒が好きで知識や興味があっても、ビジネスとなると難しさはなかったですか?
秋田:簡単ではなかったですね。神様から様々な試練を与えられました。結局、事業自体は上手くいきませんでした。ただ、その時に築いた人脈がきっかけになって、今働いている会社への就職が決まりました。起業は自分の思いや考えを形にしたり、自分で全てを決めたりできるおもしろさがありました。人との縁にも恵まれたので、独立の決断には全く悔いがありません。
業務計画を担当した自衛隊時代の経験 転職先でも強みに
古川:現在勤務している会社では、どのような業務を担当されていますか?
秋田:勤務している「株式会社Beyond」はベンチャー企業で、地方創生を支援する総合マーケティング会社です。海外向けのSNSやターゲティング広告の運用、コンテンツ作成などを事業の柱にしています。私は経営企画や総務の責任者として、中期の事業計画をつくったり、人事・評価制度を構築したりしています。
古川:自衛隊の頃の知識や経験が活きているところはありますか?
秋田:自衛隊では色々な部署を渡り歩きましたが、どの部署でも業務計画を担当していました。人事制度にも携わっていたので、今の仕事につながっています。起業して失敗した時に心が折れなかったのも、自衛隊で鍛えられた精神的な強さがあったからだと思います。自分にできることは全て尽くし、誠実に人と向き合っていれば、縁やチャンスが巡ってくると自衛隊の頃から信じて行動しています。
日本や地方のためになる事業にやりがい 自衛隊と共通の思い
古川:どのような部分に、民間企業で働くやりがいやおもしろさを感じていますか?
秋田:今の仕事は全国各地にクライアントがいて、地域の住民や事業者の方々と接する機会があります。仕事も生活環境も考え方も違う人たちと交流するのは楽しいですし、課題や悩みを解決する提案をして喜んでもらえる充実感があります。私が自衛隊で最後に所属していたのが、市谷の中央組織だったこともあり、エンドクライアントの反応を直接見ることができる今の仕事は新鮮です。
古川:自衛官は国や地元を愛する気持ちが強いので、インバウンド業界は向いていると個人的に感じています。ご自身の考え方や思いと今の仕事はマッチしていると思いますか?
秋田:すごく合っていると感じています。私は日本酒を事業として立ち上げたように、突き詰めると、日本や地方の力になる仕事をしたい気持ちがあります。酒蔵に興味を持ったのも、酒蔵は地域に根差して地方創生と密接に関わっているからです。マーケティングやコンテンツづくりを通じて地方をサポートする今の企業は、自衛隊と共通する部分がありますね。
年齢で異なる企業が求める人材 信頼できるエージェントが成功の近道
古川:自衛隊出身者の中には、転職に興味があっても一歩を踏み出せない人もいます。アドバイスはありますか?
秋田:私は今の会社で採用業務にも関わっていますが、年齢によって、企業が求める人材は異なります。20代や30代前半はポテンシャル採用になるので、礼儀など社会人として必要な要素に加えて、自衛隊出身者が武器とする体や心の強さが評価されます。一方、40歳前後になると、部下や組織を動かすマネジメント力が問われます。転職したい企業が求めている人物像を分析して、そこに響く形で自己PRすると、相手は興味を持ってくれるはずです。あとは、やっぱり信頼できるエージェントを見つけることが転職成功の近道になると思います。
古川:今後の目標やビジョンを教えてください。
秋田:まずは、ご縁をいただいた今の会社に貢献したいです。そして、以前は成し遂げられなかった起業に、もう一度挑戦したいと思っています。自衛隊を離れた時の原点となっている「後悔しない人生」を送るには、起業はあきらめられない目標になっています。
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