おそらく、自衛隊を出ることはないだろう――。そう思っていた元陸上自衛官の梅本弥さんは28歳の時、投資用不動産を販売する企業への転職を決めました。入社当時は自衛隊と民間企業の違いに戸惑い、営業職の難しさも痛感。退社も考えましたが、自衛隊を離れる決断をした時の原点に立ち返って思いとどまり、現在は着実に成果を挙げる成長を遂げています。
【プロフィール】
梅本弥:陸上自衛隊高等工科学校から陸上自衛隊に入隊。通信科で無線機やレーダー機器の整備などを担当。28歳で自衛隊を退職し、2023年4月に投資用不動産の販売などを手掛ける「GAテクノロジーズ」に営業職で入社。
古川勇気:2024年7月にBallista入社。8月からスタートした「Catapult」を担当。防衛大卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。
人を助ける仕事に魅力 離島から高等工科学校へ進学
古川:陸上自衛隊高等工科学校(以下:高等工科学校)に進学した理由を教えてください。
梅本:私は熊本県天草市出身です。比較的勉強が得意だったので、最初は地元の高校への進学を考えていましが、自宅から希望する高校までは30キロ離れていました。兄は自転車で通っていましたが、私は往復60キロを自転車で通学することに抵抗がありました。九州本島の高校に通うためには下宿となります。金銭的な負担もあることから、親からは地元の高校に進んでほしいと言われていました。天草を離れて進学するのであれば、給料をいただきながら勉強もできる高等工科学校に行った方が学びは大きいと考えました。
古川:中学を卒業して親元を離れることに不安はなかったですか?
梅本:全く知らない環境に飛び込む不安はありました。でも、好奇心旺盛な性格なので、ワクワクする部分の方が大きかったですね。高等工科学校への入学が決まっていた2011年3月に東日本大震災が起きて、被災地で活躍している自衛隊員を見て憧れや使命感が強くなったのを覚えています。私は中学生の時、職場体験で消防署を選んでいたので、潜在的に人を助ける仕事に惹かれていたのかもしれません。
会計や人事も歴任 転職で活きた自衛隊の財産
古川:梅本さんは高等工科学校卒業後、陸上自衛隊に入隊されています。どのような仕事を担当されていましたか?
梅本:通信科に所属して、無線機やレーダー機器の整備を担当していました。臨時の勤務に行くことも多かったです。公文書の管理や保全、情報保証、災害現場での需品補給や人事も歴任しました。中でも、会計隊で過ごした1年間は勉強になりました。自衛隊員数百人分の給料の払い出しや年末調整を担い、パソコンのスキルが身に付いただけではなく、お金について考える機会を得ることができました。高等工科学校にいる間、個人的に投資を学んでいたこともあり、資産運用への関心は高かったと思います。結果的に、その興味や知識が今の仕事に就くきっかけとなりました。
古川:自衛隊から民間企業への転職を決めた理由を教えてください。
梅本:自衛隊は公務員なので安定しています。一方、年功序列が基本となっているため、仕組みとして仕事の質や量に対して正当な報酬を得るのが難しい部分もあると感じていました。また、周りを見ていても、仕事ができる人に業務が集中するところにも疑問を抱いていました。私が転職した民間企業は給料の一部が歩合制です。自分の頑張り次第で報酬を上げられる場所で勝負してみたいと考え転職を決断しました。
投資用不動産の企業へ転職 熱意あふれて面談で質問攻め
古川:どのように転職活動を進めましたか?
梅本:興味のあった不動産投資をインターネットで検索していた時に広告を偶然見つけ、私の方から問い合わせました。私は他企業の入社試験を受けていません。転職したい気持ち以上に、現在勤務しているGAテクノロジーズで働きたい思いが強かったです。事業としては、投資用不動産の販売や不動産に関するアプリやポータルサービスを展開しています。私は自衛隊時代に通信関係の業務をしていたのでITやAIが好きでしたし、他の不動産会社にはない革新的な事業を進めているところにも惹かれました。担当者と面談した際、「この会社に入りたい」、「この会社以外は考えられない」と熱意を訴えました。
古川:どんなところが面談相手に響いて入社できたと考えていますか?
梅本:私はアルバイトの経験もなく、自衛隊以外の世界を知りません。好奇心と根拠のない自信で押し切りました。たまたま起業の面談担当の方が自衛隊出身の方だったこともあって、私から質問攻めしました。そこで熱意や本気度が伝わったのかもしれません。
営業のスキル+不動産の知識 民間企業へ転職直後は苦労
古川:GAテクノロジーズで担当されている仕事を教えてください。
梅本:投資用不動産の販売を担当しています。個人向けの営業です。入社してから1か月間は研修期間で不動産の知識や営業の基本を学び、その後は1人で営業活動をしていきます。社内には問い合わせを受けて成約につながらなかった顧客リストがあります。最初は人脈もないので、そのリストを見ながら電話をかけて、アポが取れたら商品を説明していました。商談の場には先輩にも同席していただけるので、どんなところに改善点があるのかフィードバックしてもらいながらブラッシュアップしていきます。
古川:販売するのが高額な投資用不動産となると、契約を取るのは簡単ではないと思います。営業に難しさを感じませんでしたか?
梅本:最初はかなり苦労しました。私は営業未経験です。営業マンとしてのスキルと不動産に関する知識、この2つが必要になります。営業やサービス業の経験がある人と比べて、入社時点では後れを取っていました。入社してから3か月間は1つも契約が取れず、退社も考えました。実は、他の仕事にも目を向けてみようと考えて転職サイトに登録し、実際に面談も受けました。
入社3か月で転職サイトに登録 思いとどまったワケは…
古川:なぜ、退社を思いとどまったのでしょうか?
梅本:電話で転職エージェントのキャリアアドバイザーと面談した時、心に響いた質問がありました。「今の職場で、どんな成果を挙げたのか」、「与えられた仕事以外に、どんなことを頑張っているのか」を聞かれたんです。その時にまだ自分は何の成果も挙げていないと痛感しました。そして、なぜ自衛隊を離れてまで民間企業への挑戦を決めたのか、原点に立ち返りました。自分が成長できる新しい環境を求めて転職したはずなのに、何も成し遂げないまま、たった3か月で辞めるのはもったいないと気付きました。その質問に回答できず、「転職はしません。こちらから連絡したのに申し訳ありません。」と伝えました。
古川:今の会社に残ると決めてから、仕事に向き合う姿勢に変化は生まれましたか?
梅本:愚直にやり続けようと心掛けました。経験の浅い私が契約を取るには、打席に立つ数を増やす必要があります。それまでよりも積極的に営業するようにしたら、少しずつ成果が出始めました。先輩から指摘を受けて、会話力も磨きました。私は自身ではコミュニケーション能力が高いタイプだと認識していましたが、商談の場に同席した先輩から「会話ができていない」と言われました。会話自体は弾んでいるように見えても、相手の質問に対して的確な回答を返せていなかったんです。そのアドバイスは今もメモに残しています。先輩や上司は知識が豊富で頼りになる方ばかりなので、自分自身が前向きに仕事に取り組んでいれば成長できる環境だと感じています。
自衛隊と異なる上司との距離感 民間企業への適応ポイント
古川:民間企業と自衛隊の違いに戸惑った面はありましたか?
梅本: もっと自分の意見を先輩や上司に伝えて良いと、民間企業で働いてから知りました。自衛隊時代は私が幹部ではなかったこともあって、上司の指示を忠実に遂行することを大切にしていました。自分の考えで動くと組織の輪を乱してしまうと思っていたからです。一方、民間企業では自発的に動いたり質問したりしないと、成長するチャンスを逸してしまいます。転職したばかりの頃は先輩や上司に、どこまで自分の意見を伝えて良いのか迷いがありましたが、経験を重ねるうちに段々と理解しました。素直に言われたことを吸収したり継続してやり抜いたりする自衛隊の強みに加えて、自分で考える力を鍛えられれば、民間に適応できると思います。
古川:最後に民間企業で活躍したいと思っている自衛隊出身者にアドバイスやメッセージをお願いします。
梅本:もし転職を考えていて、その理由が今の環境が嫌だからという理由の場合は考え直した方が良いと思います。何かやりたいことがある、今よりもお金を稼ぎたいなど、どんな理由でも構いませんがポジティブな要素がないと新しい環境でも上手くいきません。全てにおいて自分の希望通りの職場はありません。転職を決めるポジティブな理由を明確にしておけば、迷わず前に進めるはずです。
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