「今の人生の方が楽しいと思います」。そう話すのは、元陸上自衛官の金子嵩助さんです。
高校卒業後に陸上自衛隊へ入隊し、約4年間勤務した金子さん。退職後は未経験からITエンジニアとなり、約7年間の実務経験を積みました。その後、営業へと仕事の幅を広げ、現在は採用やエンジニアのキャリア相談にも携わっています。
自衛隊からIT業界へ、どのように一歩を踏み出したのでしょうか。民間企業で感じたギャップ、自衛隊経験が生きた場面、そして「やりたいこと」の見つけ方について、自衛隊専門キャリアコーチの古川勇気が伺いました。
プロフィール
金子嵩助
高校卒業後に陸上自衛隊へ入隊。普通科で通信手を担当し、約4年間勤務。自衛隊の転職フェアで出会ったIT企業に未経験で入社し、約7年間、テスト、開発、設計、要件定義、プロジェクト管理などを経験。その後、営業を希望して職種を転換し、営業・人事の業務に約3年間携わっている。
聞き手:古川勇気
自衛隊専門キャリアコーチ。自衛隊員のセカンドキャリアの充実を目指し、キャリア支援や元自衛官へのインタビューを通じた情報発信に取り組んでいる。
東日本大震災で見た自衛官の姿が、入隊のきっかけに
古川:陸上自衛隊に入ったきっかけを教えてください。
金子: 東日本大震災のときに、食事を提供したり、お風呂を用意したりする自衛官の姿を見たことです。自分もそういう仕事をしたいと思い、高校卒業後に入隊しました。
古川:自衛隊では、どのような仕事をされていたのでしょうか。
金子: 普通科の部隊で、通信手を担当していました。演習場での訓練や観閲式、災害派遣など、幅広く経験させてもらいました。特に、市街地での戦闘を想定した訓練に取り組む時間が多かったですね。
通信機材を持ちながら動くので、アンテナを折らないように気をつけたり、相手に気づかれないように動いたりする必要があります。声を出さずにサインでやり取りする訓練もあり、最初は難しさを感じました。
4年間で民間へ。転職フェアで出会った未経験からのエンジニア職
古川:2任期、約4年間で退職されています。民間への転職を考えた理由は何だったのでしょうか。
金子: 1任期目の途中で、将来の定年を意識するようになりました。定年を迎えてから初めて民間に出るよりも、自衛隊で学べることを学んで、若いうちに外の世界で経験を積んでおこうと考えたんです。
古川:未経験からITエンジニアになった経緯を教えてください。
金子: 自衛隊で開催されていた転職フェアで、たまたま良い会社に出会いました。そこで、未経験からエンジニアとして働ける企業を選んで、そのまま入社した形です。
古川:自衛隊の転職フェアにも、ITエンジニアを募集する企業が来ていたんですね。
金子: そうですね。自分の場合は、その機会がエンジニアになるきっかけになりました。
職場の雰囲気は一変。時間を守る習慣が、民間での強みに
古川:自衛隊からIT企業に移って、どのような違いを感じましたか。
金子: 最初に感じたのは、周りの人が優しくて、怒鳴り声が聞こえないことでした(笑)。職場の雰囲気は、かなり違いましたね。一方で、体を動かす機会が急に減ったので、体力が落ちていく感覚もありました。
働き方も、私が勤めた職場では基本的に9時ごろから始まり、18時ごろには切り上げられることが多かったです。自分には夜中の対応もなく、その違いには驚きました。
古川:逆に、慣れるまで戸惑ったことはありましたか。
金子: 時間の感覚ですね。自衛隊では細かく時間を意識していましたが、民間ではそこまで厳密ではない場面もありました。会議が始まる少し前から待っていると、ほかの人は1分前くらいに入ってきて、最初は驚きました。
自分は電車の遅延なども考えながら、余裕を持って出勤するようにしていました。そうした習慣は、結果的に評価してもらえたのかなと思います。
古川:私も民間企業に入ったとき、会議の前に机や椅子を整えて待っていたら、喜ばれたことがありました。自衛隊で当たり前にしていたことが、民間では良さとして受け取られることがありますよね。
金子: 確かにそうですね。最初は「そんなにかしこまらなくていいよ」と言われることもありましたが、振り返ると、自衛隊の習慣が生きていたのだと思います。
テストから開発・設計へ。7年間でプロジェクト管理まで経験
古川:エンジニアとしては、どのような仕事から始めたのでしょうか。
金子: 未経験だったので、最初はテストなどの業務から入りました。そこから開発、詳細設計、基本設計、要件定義と、少しずつ担当する範囲が広がっていきました。
最終的には、プロジェクトリーダー(PL)や、プロジェクトマネージャー(PM)の補佐として動くこともありました。スケジュールを管理したり、開発が間に合わないところには自分も入って一緒に作業したりしながら、リリースまで進めていました。
「もっといろいろな会社と仕事がしたい」。営業へ挑戦し、採用にも関わる
古川:その後、営業へと仕事の幅を広げられていますよね。エンジニアの頃から、営業をやりたいと考えていたのですか。
金子: そうです。エンジニアとして現場にいると、同じ業界の方と再び会うことも増えてきました。そのうち、もっと知らない会社や、自分が良いと思う会社と一緒に仕事をしたいと考えるようになったんです。
未経験で入った会社から別の会社へ転職した後、「営業をやりたいです」と希望を伝え続けて、営業の仕事に就くことができました。
古川:現在は、具体的にどのような仕事をされていますか。
金子: 新しいお客様の開拓や、同業の会社との打ち合わせなどをしています。エンジニアを必要としている企業に対して、「うちにはこういう技術を使えるエンジニアがいます。一緒に仕事をしませんか」と提案する仕事です。
エンジニアとしての経験があるので、技術的なことを聞いていただく機会もあります。また、在籍する約50人のエンジニアの話を聞き、今後のキャリアについて相談を受けることもあります。人事の仕事としては、採用にも携わっています。
エンジニアも営業も人事も、人との関わりが欠かせない
古川:3つの仕事を経験して、それぞれに求められることをどう感じていますか。
金子: エンジニアは、プログラミングや機械に向き合う仕事と思われがちですが、人との関わりも多いです。会話をしながら要件を決めたり、不具合をどう直したか共有したりする必要があります。人と機械の両方を意識する仕事だと思います。
営業では、相手への配慮や課題を解決する力が求められます。そのために、事前の準備や戦略を考えることが大切です。人柄を見られる場面も多いので、自分をどう出すかという点では苦労しました。
採用では、第一印象や話し方に気をつけています。相手が緊張しすぎないように、話し方を柔らかくするなど、安心して話してもらうための工夫が必要だと感じています。
古川:エンジニアから営業へ、という順番が良いのでしょうか。
金子: そこは人によると思います。最近は、営業を経験してからエンジニアになる方も見かけますし、その順番が合っている方もいます。どの順番が良いかは、その人次第ですね。
自衛隊で培った忍耐力が、今のキャリアの土台になっている
古川:振り返って、最初の仕事が自衛隊だったことは、その後のキャリアに生きていますか。
金子: 忍耐力の面では、生きていると思います。仕事を粘り強く進めたり、どうすれば効率良くできるか考えたりすることは、どの仕事でも必要になりますから。
古川:自衛隊を続けていた方が良かったと思うことはありますか。
金子: もし人生をやり直して、もう一度自衛隊に入るなら、今度は最後までやってみたいと思うことはあります。戦闘訓練に力を入れる部隊だったので、行けるところまでやってみたいという気持ちはありますね。
ただ、今からやり直そうという気持ちはありません。今の人生の方が楽しいと思っています。
古川:自衛隊と民間には、それぞれどのような良さがあると感じますか。
金子: 自衛隊には、収入の安定などの良さがあると思います。一方で、民間にはできることの幅があり、時間の使い方も含めて自由度の違いを感じています。それぞれに良いところがありますね。
やりたいことが見つからないなら、まず外の世界を知ってみる
古川:これからの進路を考えている自衛官へ、伝えたいことはありますか。
金子: 20代のうちに、自分がやりたいことを考えておくのが良いと思います。でも、決まりきらなかったとしても、30代で遅いということはありません。自衛隊を続けるなら、続けるで、とことん取り組むのも良いと思います。
やりたいことを我慢するだけでなく、自衛隊にいながらできることもあるはずです。そうしたことも考えながら、人生を豊かにしていけると良いですね。
古川:「そもそも、やりたいことが見つからない」という相談もよく受けます。そういう方は、何から始めると良いでしょうか。
金子: まずは、外の世界を知ることだと思います。今はネットでいろいろな情報を調べられるので、ネットサーフィンでも良いから情報を集めてみる。「これ、気になるな」と少しでも思ったら、もう少し深掘りしてみると良いのではないでしょうか。
そのうえで、自分が気になっていることを経験した人に、一度話を聞いてみる。30分でも1時間でも、話を聞いてみることが、一番の近道なのかなと思います。
古川:まず知ってみる、少し触れてみることが、自分に合う道を考えるきっかけになりそうですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
金子さんのインタビューを動画で見る
金子さんの言葉やインタビューの雰囲気は、YouTubeでもご覧いただけます。
自衛隊での経験を、これからのキャリアへ
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