海上自衛隊から異色の転身 防衛大アメフト部主将の経験が財産に 

海上自衛隊から仏教の道へ。さらに、自殺の相談に乗るNPO代表と企業経営者の“二刀流”に転身しました。異色の経歴を歩む竹本了悟さんは自衛隊の経験は短かったものの、防衛大時代に務めたアメフト部キャプテンの経験がNPOや民間企業で活きていると話します。現在の仕事に悩んだり、迷ったりしている方には仏教の教えを元に環境を変える大切さを説きます。 

目次

【プロフィール】 

竹本了悟:防衛大から海上自衛隊に入隊。退官後は龍谷大の大学院で仏教と哲学を学び、京都府にある西本願寺の研究所で研究職員として約15年間勤務。2018年に京都府で「TERA Energy 株式会社」を起業。経営者をしながら、NPO法人「京都自死・自殺相談センター」の代表も務める。 

古川勇気:2024年7月にBallista入社。8月からスタートした「Catapult」を担当。防衛大卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献。 

命がけで国を守る自衛官に生きがい 家族の事情で退官 

古川:防衛大や自衛隊に進んだ理由を教えてください。 

竹本:私は広島県の江田島で生まれ育ち、子どもの頃から海上自衛隊が身近な存在でした。「沈黙の艦隊」などの自衛隊が登場する作品の影響もあり、憧れの気持ちから防衛大に入りました。もう1つの理由は、子どもの頃から「何のために生きているんだろう」と考え続けていたことがあります。命がけで国を守る自衛官にかっこ良さや生きがいを見出しました。 

古川:自衛隊ではどんな業務を担当されていましたか? 

竹本:幹部候補生学校に入って遠洋航海の直前に退官したので、海上自衛隊にいたのは10か月ほどでした。自衛隊は自分に合っていると感じて楽しかったのですが、家庭の事情で辞める決断をしました。何のために生きるのかを考えた時、身近な人を守る延長線上により多くの人の命を守る自衛官の仕事がありました。遠洋航海に行くと半年くらい外部と連絡が取れなくなり、家族が大変な時に近くに居られません。自衛隊を続けていると、最も身近な人を守れなくなる矛盾が退官した理由です。遠洋航海は楽しみにしていたので、経験できず残念でした。 

第2の人生は仏教の道 京都の寺で研究職員を15年 

古川:自衛隊を辞めてからは、どのように生活しようと考えていましたか? 

竹本:自衛官として生きていこうと考えていたので目標を失い、生きる目的を探す気持ちが再燃しました。私は次男なので後継ぎではないのですが、実家がお寺です。その影響や周りの勧めもあって、仏教や哲学を勉強するために龍谷大の大学院に入学しました。マスターとドクターで計5年過ごし、その後は京都にある西本願寺の研究所に入って研究職員として働きました。 

古川:研究職員の仕事はどのような内容でしたか? 

竹本:研究所全体では経典など古い文書を編さんしていましたが、私は主に仏教の教えを世間の方々に分かりやすく伝える方法を模索したり、社会課題に対して宗教者や教団がどのように貢献するのかを研究したりするチームに入りました。私は仏教に出会って、「自分は生きていても良い」、「この世界は捨てたものではない」と思えるようになって救われました。自分と同じように生きることに辛さを感じている人に、この感覚を共有して生きるヒントにしてほしいと前向きになりました。研究職員は41歳だった2016年まで約15年間続けました。 

自殺の問題に直面 活動資金確保を目的に起業 

古川:その後は「TERA Energy 株式会社」を起業されていますが、経緯や理由を教えていただけますか? 

竹本:研究所では途中から脳死や臓器移植といった現代の課題にも取り組みました。生命の倫理や、自衛隊出身ということもあって憲法9条に関する分野も担当しました。その中で、2007年から自殺の問題に関わるようになりました。自分の中で段々と大事なテーマになっていき、仲間のつながりも広がりました。研究だけではなく実践に移さないといけないという思いも芽生え、2010年に仲間10人を集めてNPO法人「京都自死・自殺相談センター」を立ち上げました。このセンターの活動資金を確保する手段が起業でした。 

古川:NPOの活動は資金に苦労していたのですか? 

竹本:この活動は死にたいと思っている人の居場所づくりを目的としたもので、電話やメールで相談に乗っています。相談の連絡は途絶えません。事前予約制のイベントを開催すると、申し込み開始から5分で定員が埋まる時もあります。自分の居場所を探したり、藁にもすがる思いで助けを求めたりする人がたくさんいるんです。一方、私たちは毎年ボランティア養成講座を開いてスタッフの確保に努めていましたが、誰もが仕事をしながらボランティアする形になるため、参加率や定着率に課題がありました。ある時、若いボランティアから「これを自分の生涯の仕事にしたいので常勤で雇ってください」とお願いされました。気持ちは非常にうれしい反面、安定して活動資金を集められる環境が整っていなかったので断らざるを得ませんでした。何か良い方法はないのか、ずっと悶々としていたところ、電力会社を立ち上げるアイデアを知りました。 

寄付付きの電力会社設立 賛同者広がって事業安定 

古川:ビジネスの経験がない中で、なぜ起業しようと考えたのですか? 

竹本:研究所の同僚で今は私が代表を務める「TERA Energy株式会社」の取締役を務めている僧侶から、環境問題に関する勉強会に誘われました。その中で、強烈なインパクトを受けたのが、ドイツの電力自由化についての話でした。電力自由化を受けて地方のおじさん数人が電力会社をつくり、その収益で地元の赤字路線バスを買収して地域の足を支えているという内容でした。当時、日本も電力が自由化されて間もないタイミングで、勉強会の講師が呼びかけた「皆さんもドイツのようなビジネスモデルをつくれるんですよ」という言葉を真に受けてしまいましたね(笑)。電力会社を立ち上げれば、相談センターの財源を継続的に確保できると思いました。その時、現在展開している事業の「寄付つきでんき」を思い付き、勢いで起業しました。行き当たりばったり生きているところがあるので、事業が上手くいくかどうか悩むよりも、やってみようと行動を起こしました。 

古川:未経験の分野に挑戦する苦労や難しさはなかったですか? 

竹本:事業計画やキャッシュフローという言葉さえ知らなかったので、勉強したり、周りに助けてもらったりしながら進めていきました。私たちの事業は、お客さまに電気を購入してもらい、電気使用量の2.5%を寄付する仕組みです。今は寄付先の登録が約120団体あり、お客さまが好きな団体を選択できます。徐々に認知度や賛同が広がり、起業して5年後の2023年に契約が2000件を超えました。損益分岐点も超えて事業の形が見えてきました。 

個の良さを活かした組織づくり ベースは防衛大アメフト部の経験 

古川:経営者となって防衛大や自衛隊の経験が活きている部分はありますか? 

竹本:防衛大4年生の時にアメフト部のキャプテンを務めた経験は今に活きていると感じます。選手としての能力は中の下くらいでしたが、チーム力を上げる役割は果たせたと思っています。主力選手や控え選手、指導者など立場や意見が異なる人たちの間に入って、チームを上手く機能させることができました。全体をまとめるというより、個々の良さが発揮される環境を整えて調整するイメージです。これは企業でも同じです。それぞれの特徴を引き出して力を最大限発揮できれば、成果を上げられます。防衛大で成功体験を積めたのは大きかったですね。 

古川:個を活かした組織づくりで、どのようなことを心掛けていますか? 

竹本:重要なのは、個々に特徴が違っても同じ方向へ進むことです。目指すゴールが違うと、けんかになったり、モチベーションの低下に繋がります。スタート時点で方向性を共有し、会社としてみんなの人生を精一杯応援すること。人生の一部となる仕事を一緒にやっていく姿勢を大事にしています。 

「環境を変えるのが一番」 防衛大・自衛隊出身は武器になる 

古川:何のために生きるのか、答えは見つかりましたか? 

竹本:何のために生きるのかを考えるようになったのは、小学3年生の時に受けたいじめがきっかけでした。苦しくて辛い経験を封印してずっと生きていましたが、仏教に出会って考え方が変わりました。仏教は不甲斐なさや情けなさなども含めて、自分の全てと向き合うところから始まります。よくよく思い返してみると、いじめに絶対に加わらない友達や助けてくれた先生がいました。母親はどんな時も味方でいてくれました。支えてくれる人がいたと気付いた時、自分の人生を取り戻した感覚がありました。京都自死・自殺相談センターには、生きる意味や居場所を見出せずに悩む多くの人から連絡がきます。自分自身が救われた感覚を同じように他の人にも感じてもらえる、触媒のような存在になることが私の生きる意味だと考えています。 

古川:今の仕事に悩んだり、迷ったりしている自衛隊出身者にアドバイスをお願いします。 

竹本:自分と向き合って、何に悩んでいるのかをクリアにすることが大切です。本人も分からなくなっているケースが少なくありません。仏教の教えを参考にすると、環境を変えるのが一番です。苦しいのであれば、今の仕事を辞めた方が良い。民間企業で働くにしても、起業するにしても、防衛大や自衛隊出身というだけでアドバンテージになる場所はたくさんあります。辞める前まで所属していた組織での経験は次に活きてくるので、決して無駄ではありません。別の場所で輝いて、周囲や社会に貢献すれば良いと思います。 

最後に 

竹本さんのキャリアは、自らの価値観に基づいて新たな道を切り開いてきたことがわかります。自衛官として国を守る使命を持ち、その後は仏教の研究を通じて人々に生きるヒントを提供し、さらには社会課題に向き合う事業を起こされました。彼の経験は、キャリアの選択に迷う多くの人にとって示唆に富むものだと思います。 

特に、防衛大で培った組織運営の経験が、企業経営においても活かされている点は、自衛隊出身者の皆様にとって共感できる部分ではないでしょうか。自分の強みを理解し、それをどのように次のキャリアに繋げるかを考えることが、充実した人生への第一歩となります。 

もし、あなたも今後のキャリアに悩みや不安を感じているなら、ぜひCatapultのキャリアパートナーと面談してみませんか?経験豊富なキャリアパートナーが、あなたの経験や強みを活かせる道を共に考え、サポートいたします。 

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この記事を書いた人

2024年7月にBallista入社。8月からスタートした自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする事業「Catapult(カタパルト)」を担当。防衛大学校卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。

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