自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする「Catapult」がシリーズでお伝えしている自衛官出身者のインタビュー、今回は、企業向けの研修などを展開する企業「株式会社K-7」を経営する北村翔さんです。北村さんは民間企業から自衛隊に入り、再び民間に移って起業する異色の経歴を辿っています。全ての仕事に気 気づきや学びがあり、「無駄な経験は1つもない」と言い切ります。
【プロフィール】
北村翔:大学卒業後、眼鏡量販店に就職。その後、陸上自衛隊に入隊。退官後はコンサルティング会社、レーザー銃を製造する会社を経て、現在は戦闘型次世代人財育成研修やレーザー銃対戦アクティビティの事業を展開する「株式会社K-7」を経営。
古川勇気:2024年7月にBallista入社。8月からスタートした自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする事業「Catapult(カタパルト)」を担当。防衛大学校卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。
25歳で入隊 自衛隊を志した2つの理由
古川:北村さんは一度、民間企業に勤めてから自衛隊に入るという珍しい経歴の持ち主です。なぜ、自衛隊への入隊を決めたのでしょうか?
北村:私は25歳の時に自衛隊に入りました。志した理由は、主に2つあります。1つは子どもの頃から好きだった映画の影響です。ハリウッドの映画では警察や軍隊がかっこよく描かれていて、国のために体を張って戦うことへの憧れが根底にありました。当時は自衛隊の入隊が27歳までだったので、悔いを残さない決断をしようと考えました。もう1つは、将来的にレーザータグの事業を立ち上げたいという思いがあったからです。そのためには、チームで戦う本格的な場を経験する必要があると考え、陸上自衛隊を志願しました。
古川:北村さんは現在、レーザータグを使ったチームビルディング研修の事業を展開されています。どのようなきっかけでレーザータグと出会ったのですか?
北村:高校2年生の時、カナダに2週間ホームステイしました。現地のホストファミリーに連れて行ってもらったのが、レーザー銃で撃ち合うレーザータグというアクティビティでした。その楽しさに没頭して、いつか日本で普及させたいと思いました。レーザータグは、赤外線のレーザー光を発射して相手と対戦するので、痛みや怖さがありません。国籍、年齢、性別を問わず、初対面の人とチームを組んでも一体感が生まれます。日本にはサバイバルゲームがありますが、ボウリングやカラオケのような感覚で楽しめるレーザータグは共存できると感じました。
自衛隊で学んだ「人とのつながり」 民間でも財産に
古川:レーザータグに関する会社を立ち上げたい思いを持ちながら、北村さんは会社員や自衛隊を経験しています。起業するまでに、どのような仕事をしてきましたか?
北村:大学卒業後に新卒で入社したのは眼鏡量販店でした。当時は人と話すのがあまり好きではなかったので、そこが、起業する上でネックになると感じていました。弱点を改善するには接客業が良いと考えて、3年ほど販売員として働き、コミュニケーション能力を磨きました。その後、自衛隊を2年間経験しました。自衛隊は短い期間でしたが、部隊には、自分に厳しく、他の隊員の手本になる行動を意識している素晴らしい方がたくさんいました。戦闘訓練にも、想像以上に参加させてもらいました。自衛隊で学んだ「人とのつながりの大切さ」は、今も財産になっています。自衛隊を離れてからは、コンサルティング会社とレーザー銃を製造する会社の2社を経て、起業に至りました。
古川:なぜ、自衛隊を辞めてから、すぐに起業しようと考えなかったのですか?
北村:起業も選択肢の1つにありました。ただ、経営者になるには、知識や経験が足りないと感じていました。1年くらい勉強してから就職活動に入りました。色んな業界がある中で、経営者と話をしたり、数字に触れたりする仕事が将来に生きると考え、コンサルティング会社に絞って就職先を探しました。そのうちの1社が「独立志向がある人はコンサルタントに向いている」と、未経験の私を採用してくれました。給料が良い、休みが多いといった志望理由ではなく、将来どんなことをやりたいのか、を明確に説明できると、面接で相手に響くと実感しましたね。
自衛隊退官後に再び民間へ コンサルとレーザー銃の会社に勤務
古川:コンサルティング会社では、どのような業務を担当していましたか?
北村:コンサルタントとして活躍するには、ある程度の実績が必要です。未経験の私は、コンサルタントをサポートする役割を担いました。例えば、コンビニの出店を検討しているクライアントとのプロジェクトでは、その場所の交通量や商圏の状況などを調査して、実際に出店した場合の売上を予測していました。この会社では、コンサルタントとしてのスキルというより、会社の在り方を学びました。経営者から社員を大切にする方針が伝わってきて、人を動かすために大事なことを肌で感じました。
古川:次に選んだ仕事は、現在の事業と直結しているように見えます。どのような経緯で転職されたのですか?
北村:コンサルティング会社で働いている時、静岡県にレーザー銃を製造している日本で唯一の会社があると知りました。レーザー銃を体験できるフィールドに事務所が併設されている会社で、実際に見に行くことにしました。事務所の近くにいたところ、スタッフの方に「体験してみますか?」と声をかけられて、私がレーザータグの事業を考えていることを話すと、「社長と会ってみますか?」と紹介してくれました。社長にレーザータグとの出会いや起業の目標などを伝えたら「うちの会社で働いてみる?」と誘っていただき、転職を決めました。
「自分でやるしかない」 レーザータグの会社立ち上げ
古川:レーザー銃の会社で担当していた業務内容を教えてください。
北村:レーザー銃を体験するイベントやチームビルディング研修の営業を担当していました。私の入社後、空挺団の元教官が入ってきたので、その方に教育のノウハウを教わりながら、一緒に研修プログラムをつくったり、研修を運営したりする業務にも携わりました。その会社で1年くらい働き、2017年に独立しました。
古川:高校2年生の時にレーザータグを知り、思い描いた通りに起業されたのですね。なぜ、目標を達成できたと思いますか?
北村:ずっと強い意志を貫いていたわけではありません。ただ、カナダで衝撃を受けたレーザータグが日本には一向に入ってくる気配がなかったので、「自分でやるしかない」という気持ちがありました。私は学生時代、チームでの活動に憧れていましたが、球技が苦手でした。球技が苦手でもチームワークの醍醐味を満喫できるのがレーザータグです。誰でも活躍できるチャンスがありますし、アクション映画の疑似体験もできます。起業できたのは、自衛隊の戦闘訓練で、多くの気付きを得られたのも大きかったです。戦いの場は個々の本当の姿やチームワークがすごく見えます。戦闘型の研修は、企業や組織がチームワークを考えるきっかけを与える事業になると考えていました。
「無駄な経験1つもない」 全ての仕事から気付きや学び
古川:眼鏡量販店から自衛隊やコンサルティング会社を経て、レーザー銃を製造する会社まで、全てが今の事業に活きていますね。
北村:それぞれの仕事で 気づきや学びがありました。その他にも色々な講座を受けて、「自走式組織コンサルタント」という組織づくりに関する資格も取りました。私たちの会社では、経験や学びを仕事に落とし込んでいく方法やチームワークを高めていく方法を身に付ける研修が強みの1つになっていますが、私自身が社会人として積み重ねた経歴が生きています。振り返ってみると、無駄な経験は1つもなかったですね。もちろん、仕事には無駄と感じることや嫌なこともあります。でも、そこから学びを得られるかどうかは自分次第です。無駄と感じるのは、まだ視点が浅い証。全ての経験から学ぶどん欲さが大切で、そこは今後も意識していきたいです。
現状に違和感抱いたら自己分析 信頼できる人への相談が有効
古川:最後に、転職を考えている現役自衛官や自衛隊出身の方にメッセージをお願いします。
北村:自衛官は社会的に意義が大きい仕事です。誇りや自信を持って仕事をしてほしいと思っています。ただ、何か違和感を抱いているのであれば、その原因を深堀りすることが大切です。自分1人で難しい場合は、仲間や信頼できる人と話をすると解決のヒントが見えてきます。状況によって悩みは変わってくるので、常に、自分自身をよく知ることを意識すると良いと思います。
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