違いが大きく見えがちな自衛隊と民間企業。ところが、根本は変わらないと感じている自衛隊出身者もいます。元陸上自衛官で、営業マンを経て20代で経営者となった植村弘明さんは自衛隊で培ったコミュニケーション能力を存分に活かして民間企業で飛躍しています。
【プロフィール】
植村弘明:高等工科学校から陸上自衛隊に入隊。計8年間、自衛隊の世界で過ごした後、不動産投資会社に転職し、営業職を経験。現在はノーコードを活用したITコンサルティング会社「株式会社ママン東京」の社長を務めながらレストラン経営なども手掛ける。
古川勇気:2024年7月にBallista入社。8月からスタートした「Catapult」を担当。防衛大卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。
自衛隊と民間企業 仕事の充実感やワクワクは同じ
古川:植村さんは高等工科学校から陸上自衛隊に進み、23歳の時に不動産投資の企業に転職されています。民間企業には、すぐに馴染めましたか?
植村:確かに自衛隊と民間企業の違いはありますが、苦労はしませんでした。ギャップが新鮮で楽しかったです。働く環境が変わっただけで、仕事の充実感やワクワク感を得られること自体は変わりませんからね。
古川:不動産投資の会社では、どのようにして業務を覚えていきましたか?
植村:入社して3か月間は研修で、ビジネスマナーや販売する投資用不動産の特徴など営業職に必要な基本を教わりました。同期の同僚は会社から勧められて宅建の勉強をしていました。しかし、私は営業先を早く拡大したい気持ちから空いている時間は飲みに行っていました。社内に専門知識のある先輩や上司がいるので、自分は武器としているコミュニケーション能力を活かして人脈を広げて上司に紹介できるお客様を増やそうと考えました。
未経験でも入社数か月で結果が 強みを活かした営業スタイル
古川:他の同期の方々と違う仕事の仕方で上手くいきましたか?
植村:通常は入社から4か月経つと営業マンとして1人で活動するようになりますが、私は入社して2か月後に飲み会をきっかけに親しくなった3人を部長に紹介しました。私自身には不動産に関する知識が少ないことを相手に伝えた上で、「おもしろい部長がいるから会ってみませんか?」と勧めました。ただ、「営業されても嫌だったら話を聞かなくても構いませんから」と全く強制はしていません。部長は私の営業スタイルを尊重して、3人と会ってくれました。全員が部長の話に興味を持ち、そのうちの1人は実際に物件を購入してくださいました。
古川:営業職の基本とされている電話や訪問での営業はあまりされていなかったのですか?
植村:私は飲み会やセミナーに参加して、仕事以外の場で人脈を広げる方法を重視していました。FacebookやInstagramも活用して知人を増やしていました。営業目的の人脈づくりというより、親しくなった相手が不動産投資の営業マンだったという形ですね。給料は基本給プラス歩合だったので、年収は着実に上昇しました。ただ、ある時、別の部署の上司からリストを渡されて電話営業するように指示され、意見をぶつけたことがありました。
対立せずに尊重 自衛隊の例を出して上司に説明
古川:自分の意思にそぐわない営業方法を指示されても受け入れたのですか?それとも、反発して言い合いになりましたか?
植村:その上司は電話営業の件数を増やすほど、契約件数を増やせると考えていましたが、私が見る限り、そのやり方をしている営業マンは成績を残せていませんでした。それに、毎日毎日、電話ばかりしていて辛そうでした。私は上司に「申し訳ありませんが、電話営業している社員は仕事を楽しんでいるように見えません。それはお客さまにも伝わってしまうので、結果を出すのは難しいと思います。それから、自衛隊でもそうでしたが、疲弊した状態が続くと、大事な時に力を発揮できなくなってしまいます。」と考えを伝えました。
古川:植村さんの主張に対して、上司はどんな反応を示しましたか?
植村:私は友人を増やして、そこから人を紹介してもらって知り合いを増やした方が関係性は濃くなって、結果的に契約に結び付きやすいと説明しました。その上司からは「それなら、資料をつくってみろ」と言われたので、私は友達のリストをつくって人脈の広がり方や営業した結果などをまとめました。この時、今まで自分は感覚で仕事をしていると気付いたのです。数字にして分析したり、営業のノウハウを社内で共有したりする必要性を知った貴重な機会となりました。そして、上司には「決められたことを愚直に続けるタイプは電話営業が合っているかもしれませんが、社交的なタイプは私と同じやり方で結果を出せると思います。自分みたいな営業担当が入社したら面倒をみますし、他にも軸となる営業手法を会社として増やした方が良いと考えます」と自分の意見を話しました。
古川:上司は植村さんの説明にご納得いただけましたか?
植村:ご納得いただけました。相手のやり方や考え方を真っ向から否定するのではなく、一緒に何かを確立していこうと提案すると受け入れられやすいと感じます。年齢や性格によって営業のスタイルが変わるのは自然なことです。これは自衛隊で教官として部下を指導していた時にも感じていたことで、目的は同じでも個々に合ったアプローチは異なります。私は今、経営者や組織を統括するポジションを務めていますが、その人に合っていない考え方や手段を押し付けないようにしています。
営業マンから経営者に 将来の目標は「万屋」
古川:不動産投資会社の営業職を経験した後は、どのようなキャリアを歩んでいますか?
植村:不動産投資会社を退職後、プログラミングのスキルがなくても誰でもアプリをつくることができるノーコードを使ったITコンサルティング事業に携わっています。ITに関する専門的な知識が求められるのではなく、企業の課題や悩みを理解してノーコードを活用して解決するコミュニケーション能力が問われる仕事です。その他にも、飲食店のオーナーやITを組み合わせた不動産事業もしています。
古川:IT、飲食、不動産と幅広い分野の事業に携わっていますが、将来のビジョンを教えてください。
植村:私はいわゆる万屋(よろずや)になりたいんです。分からないことが嫌なので、20代は色んな現場で経験を積んでいます。飲食業ではマーケティングを学んで、店舗を拡大しました。飲食業界の方に対して、業務を効率化するITサービスや売上が見込める物件を紹介するなど、不動産やITの知識や人脈を活かせるところが私の強みです。
自衛隊時代の飲み会で磨いた話術 民間企業でも武器に
古川:今の成功につながっている自衛隊時代の経験はありますか?
植村:よく上司と飲みに行っていたのは、今につながっていると思います。営業職で結果を残せたのは、相手を楽しませる話術や質問力を自衛隊時代に磨いたからです。お酒を飲まなくても良いので、相手に興味を持って話を掘り下げたり、会話を盛り上げたりする力は営業マンにも経営者にも大切だと考えています。それから、相手に学ぶ姿勢も自衛隊で養われました。疑問や悩みに直面した時や自分より能力が高い人と出会った時、私は「教えてください」と頭を下げます。自衛隊にも知識や経験が豊富な人たちがたくさんいたので色々と教わりました。お願いすることは全くかっこ悪くありません。自分が成長するチャンスだと捉えています。
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