アルバイトさえも決まらず…防衛大卒業後に直面した民間の壁 挫折から成功への軌跡 

現在の姿からは想像できない暗闇に迷い込んだ時期もあったといいます。大手コンサルティングファームで結果を残し、自ら創業したBallistaでも事業を拡大している中川貴登代表は防衛大卒業後、社会に適応できず苦悩しました。成功に至った出会いや努力、自衛隊出身者が民間で活躍するために必要な要素を明かします。 

目次

【プロフィール】 

中川貴登 
防衛大・航空宇宙工学科卒業。デロイトトーマツコンサルティングやエクサウィザーズなどを経て、2022年8月にBallistaを設立。新規事業開発、組織改革、マーケティングの3つの軸で、多数の支援実績や実行経験を有している。直近では、組織変革の戦略策定や実行、会社設立、新規事業の立上げなどのプロジェクトを担当。コンサルティングスキル、実行スキル、情熱を併せ持つ。 

古川勇気
2024年7月にBallista入社。8月からスタートした自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする事業「Catapult(カタパルト)」を担当。防衛大学校卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。 

社会に適応できず…軌道修正に苦労して半年間は無収入 

古川:中川さんは防衛大卒業後、サラリーマンとして実績を残し、2022年にBallistaを起業されています。はじめから民間の社会に順応できましたか? 

中川:実は、かなり苦労していました。防衛大で学んでいる時、「私たちの生活や社会は、当然のように未来へ続くわけではない」、「諸外国と比べて豊かではなくなっている日本に、ビジネスで希望をもたらしたい」と考えて民間企業への就職、さらに将来的に起業するキャリアビジョンを描いていました。しかし、最初は就職どころか、アルバイトにも受かりませんでした。 

古川:今振り返ると、どんなところに就職先が決まらない原因があったと感じていますか? 

中川:社会人としての「当たり前」が欠けていて、社会に適応できていませんでした。例えば、毎週決められた曜日に勤務するシフト制が受け入れられませんでした。何事も自分のやり方や考え方を貫こうとしていましたね。「このままではマズイ」と感じていながらも、軌道修正できずに、半年くらい全く収入のない状態が続きました。 

人生が変わる出会い 民間でも活きた防衛大で身に付けた「3つの要素」 

古川:社会に適応できない状態から、どうやって脱するきっかけをつかんだのですか? 

中川:たまたま、ご縁をいただいた社長のおかげで人生が大きく変わりました。新規事業開発やデジタルマーケティングを展開する会社に採用してもらい、OJT形式で社長をはじめとする取締役の方々からビジネスに必要なスキルやマインドを直接教わりました。自分で成長曲線を描いたわけではなく、出会いに恵まれて育ててもらった形です。 

古川:最初に入社した会社で、防衛大の経験が活きた部分はありましたか? 

中川:主に3つあります。1つは、挫けない心です。自分の能力が低すぎて諦めたくなるタイミングがたくさんありましたが、決して投げ出さないメンタルは防衛大で鍛えられました。2つ目は仲間を思う力。仕事は自分だけでは完成できないので、エンジニアやデザイナーの方々と一緒にプロジェクトマネジメントしながらやっていました。仲間を大切にしてチームで団結することも防衛大や自衛隊で自然と身に付きますよね。3つ目は責任感です。1つの仕事をやり切る力、任務を遂行する力は防衛大の経験が活きました。 

大企業の役員から弱点指摘 コンサルファームに転職 

古川:最初の企業に就職してからは、順調にキャリアを重ねていったのですか? 

中川:現在に至るまで、何度も挫折を経験しています。最初の会社で2年半くらい働いて色々な業務ができるようになった時、ある大企業の役員から「中川くんには日本を豊かにしたい思いがあるけど、組織や社会を動かす力が欠けているよね」と戦略的な視点に課題があると指摘されました。そこで、コンサルティングファームへの転職を決めました。社会を変える事業を担う大企業のコンサルティングを担当することで、自分に足りないものを習得しようと考えたわけです。 

古川:その決断が現在につながっているわけですね。コンサルタントとしては、すぐに力を発揮できましたか? 

中川:全くできませんでした。まずは、コンサルティングファームに入るところから苦しみました。問い合わせフォームやリクルートページから応募しても不採用ばかりで、転職エージェントからは「もう中川さんに紹介できる企業はありません」と言われたくらいです。他のエージェントにも頼みながら、泥臭く転職活動した結果、たまたま今でも恩師と慕う方が経営する会社に拾ってもらいました。ただ、ようやく入ったコンサル業界でしたが、私の能力が低すぎて、その会社では半年間、自分だけ担当業務がありませんでした。案件が次々と入ってくる会社だったので、担当がないのはあり得ない状況でした。 

「日本を豊かに」 ぶれない信念で人一番の努力 

古川:戦力になれない状況から、どうやって周りの評価を変えていったのですか? 

中川:私のような要領が良くないタイプが周りに追いつき、追い越すためには人の何倍も努力して、将来に向けて必要なスキルを伸ばすしかないと考えました。成功には必ず理由があるので、能力が高い先輩がつくる資料をひたすら写経しました。職場や外部のセミナーに参加してインプットを大切にしながら、自分でセミナーを開くなどアウトプットの時間もつくりました。将来的に起業したい思いをずっと持っていたので、ファイナンスといった今後につながる勉強も並行して進めていました。 

古川:自分の力が足りていない中で、仕事のモチベーションを維持するのは難しくなかったですか? 

中川: 今でも一貫しているのですが、この国を豊かにする事業を築き上げていきたいとずっと考えてきました。今の努力や苦労が必ず将来につながる、いつか独立してビジネスをつくっていくと思い続けていました。大きな成功に向かって小さな成功を積み重ねてきた感覚ですね。最初は小さなプロジェクトでも価値を生み出していくことで、社内外から信頼を勝ち取ってチャンスが巡ってきます。 

自衛隊から民間への転身 一番苦労するのは… 

古川:コンサルタントとして自信を持つきっかけになった仕事はありましたか? 

中川:コンサルタントとしてやっていけると自信を深めた仕事が2つあります。1つはリーダークラスだった頃に担当した大企業の組織改革の案件です。約2年に渡るプロジェクトに目途が立ち、私がチームから離れるタイミングで、その企業のミドルマネジメントの方々が玄関に並んで「中川くん、ありがとう」と花束をプレゼントしてくれました。うれしくて恥ずかしいくらいに大号泣したのですが、コンサルの仕事に就いて良かったと実感した瞬間でした。もう1つは、大企業のCDOと仕事した際、「私が当時働いていたデロイトに発注しているわけではなく、中川くんだから任せているんだよ」と言っていただいたことです。もちろん会社の看板は大事ですが、個の力が重要だと強く感じました。個の可能性を追求するBallistaの理念は、この時の経験も大きいです。 

古川:組織の規模が大きく規則が厳格な自衛隊と、中川さんが勤務してきたベンチャーやコンサルファームは対極にあると感じます。ギャップに悩みませんでしたか? 

中川:一番苦労したのは、「お前はどうしたいの?」と言わるところです。自衛隊ではサーバントリーダーシップが重要なので、自分の意志や考え方よりも与えられた任務の遂行が求められます。民間企業でもサーバントリーダーシップは大切ですが、プラスして自発的に考えて行動することも必要になります。そのギャップに順応するまで時間がかかりました。民間企業で働いているうちに自然と身に付くものではないので、思考のトレーニングなどを通じてアウトプットの力を磨きました。 

成功に不可欠な“正しい努力” パートナーの存在がカギ 

古川:自衛隊出身者が民間企業で活躍するためには、自発的に考えて行動する他にも必要な要素はありますか? 

中川:熱量や努力は不可欠だと思います。一般的な大学を卒業した人や民間企業出身者は、民間企業で働くための勉強や経験をしています。民間で働くという点では、防衛大や自衛隊出身者はスタート時点で差があるわけです。その差を埋めるために努力が必要になります。そして、努力の方向性を間違わないことです。正しい方向へ進まなければ、時間や労力が無駄になってしまいます。私の場合は相談相手がいなかったこともあり、民間企業への就職に時間がかかりましたし、入社後も努力が結果に結びつかない時期がありました。 

古川:私も同じ苦労をしています。だからこそ、8月にスタートした「Catapult(カタパルト)」では、自衛隊出身者が民間企業で活躍するための独自サービスを展開しています。中川代表や私を含めて防衛大や自衛隊を経験したメンバーがキャリアパートナーを務めるので、他社にはない唯一無二の存在になれると自信を持っています。 

中川:民間企業に移った自衛隊出身者の方々は成功と失敗、二極化すると感じています。Catapultでは、1か100ではないグラデーションをつくっていければ良いなと思っています。私たちが自衛隊経験者を正しい方向に導くので、民間企業でも成長曲線を描けるはずです。自衛隊の経験が民間でも活用されれば、日本が明るく豊かになると確信しています。 

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この記事を書いた人

2024年7月にBallista入社。8月からスタートした自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする事業「Catapult(カタパルト)」を担当。防衛大学校卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。

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