自衛隊員出身者は女性も民間企業で活躍しています。元航空自衛官の西田千尋さんと元海上自衛官の新井香奈さんは現在、キャリアコンサルタントとして転職希望者をサポートしています。お二人の対談は、後悔しない転職に加えて、家事や育児と仕事を両立する方法など、特に女性の自衛隊出身者が知りたい情報満載でした。
【プロフィール】
西田千尋:防衛大42期(女子3期)卒業の元航空自衛官。総務人事を主に担当。航空自衛隊初の託児所開設にも尽力した。自衛隊に24年間勤務し、2021年に人材紹介の民間企業「縄文アソシエイツ」に転職。キャリアコンサルタントとして活躍している。
新井香奈:防衛大43期(女子4期)卒業の元海上自衛官。主に誘導武器の開発・メンテナンス業務に従事。自衛隊を離れた後はベンチャー企業2社に勤務し、キャリアコンサルタントとして独立。現在はNPO法人「子ども支援センターつなっぐ」の事務局長も務めている。
古川勇気:2024年7月にBallista入社。8月からスタートした自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする事業「Catapult(カタパルト)」を担当。防衛大学校卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。
少ない事前情報で防衛大に入校 ギャップに驚きの連続
古川:最初に、防衛大学校を目指した理由を教えてください。
西田:私は国を守るという志よりも、住んでいた高知県を出て東京に行きたい気持ちが一番でした。防衛大の入試は一般的な大学よりもかなり早く、9月頃に推薦の試験がありました。東京に行ってみたくて受験しました。結果的には、防衛大は横須賀にあって、思い描いた都会の生活とは違うオチでした。
新井:私は理由が2つありました。1つは、西田さんと同じで、地元の岡山県から都会に出てみたいという願望です。トレンディドラマが大好きで、キラキラした世界への憧れがありました。実際はドラマの世界とは大きく違いましたが(笑)。もう1つは、金銭面です。東京の大学に進学するとなると、親から「学費や生活費でお金がかかる」と反対されるロジックを打ち消すには、在学中から給与がもらえる防衛大がベストな選択でした。当時は、今と違って女性が働くことにネガティブな時代で、女性は結婚したら仕事を辞めるのが民間企業のイメージでした。それなら、防衛大から自衛隊に入って国家公務員になろうと考えました。
古川:防衛大や自衛隊では、どんなことに驚きましたか?
西田:今のようにインターネットやSNSが普及した時代ではなかったので、イメージと現実とのギャップが大きくて驚きの連続でした。記憶に焼き付いているのは、最初に見た点呼の光景です。就寝前の先輩たちの点呼を見て衝撃を受けました。すごいところに来たな、と。また。一般大学に進学した友達から合コンに誘われた時に「外に出られないから行けない」と断ったら、「どういうこと?」と驚かれましたね。私は防衛大の女子3期生で女性が少なかったので、自衛隊では女性のリーダー像を描く難しさがありました。
新井:入学や入隊前の情報が少なくて、ギャップが大きかったですよね。防衛大の本館前はきれいですが、疲れた時に座ろうとしたら「座ったらダメ」と言われたのをすごく覚えています。私は女子4期で、西田さんと同じように先輩女性が少なくて情報があまりなかったところに苦労しました。
「今、何が大事なのか」 明確な価値基準で後悔しない選択
古川:お二人は自衛隊から民間企業に転職し、結婚や出産も経験されています。家事や育児と仕事を両立させるポイントはありますか?
新井:私は今、自衛隊を含めて公務員のキャリアカウンセリングの仕事をしています。この仕事や自分の経験を通して感じているのは、「自分が一番大切にしたいことを大切にできる選択」の重要性です。そして、それが後悔しないことにつながります。家庭と仕事を両立するために理想を描いても、思い通りにいかないことの方が多いです。将来を見据えるよりも、「今、何が大事なのか」を考えて選択すると、どんな結果になっても納得できるはずです。
西田:私も近い考え方で、「ありたい姿を描くこと」が大事だと思っています。私の会社はエグゼクティブのサーチファームで、「良いリーダーとは、どんな人物なのか」、「良いリーダーと接するコンサルタントは、どうあるべきか」を常に考えています。仕事をしていて感じるのは、志を持っている人は年齢にかかわらず素敵です。人生の軸がぶれないように、ありたい姿や自分の価値基準を明確にしておくと、日々の決断に迷いがなくなります。例えば、子どもが熱を出した時に会議があった場合、価値基準を決めておけば選択しやすくなります。
新井:悩む時は軸が揺らいでいますよね。結婚も出産もライフステージとして大きな変化が起きます。その変化は自分だけではなく、配偶者や子ども、周囲の人にも影響します。その時に根っこにあるものが固まっていると揺れ動いても、振り戻ってくる感覚がありますよね。
配偶者やキャリアパートナー 人生の決断で心強い“伴走者”
古川:人生の軸を定めるのは女性に限らず、男性にも響く言葉ですね。
西田:そうは言っても、軸がぶれそうになる時は誰にでもあります。また、自分のことは自分が一番分かっていない面もあります。その時にパートナー、伴走してくれる人の存在が大事です。私の場合は、夫の支えが大きいですね。私のことをよく知った上でアドバイスしてくれますし、日々の家事や育児を分担できているので仕事にも力を注げます。これは男性だから、女性だからということではなくて、仕事と家庭の両立にはお互いの理解や協力、分担は不可欠だと思っています。
新井:私は子どもが3人いて、子どもの成長に合わせて仕事や働き方を変えていました。西田さんのお話にあったようにパートナーの存在は大切で、配偶者に限らず色々なパートナーがいます。私も西田さんもキャリアコンサルタントをしていますが、配偶者とは違った視点でアドバイスできます。信頼できる人は、たくさんいると心強いですよね。
古川:お二人はキャリアのプロとして、女性から悩みを聞く機会が多いと思います。女性が陥りがちな落とし穴はありますか?
新井:ヒラリー・クリントンさんが米国の大統領選に敗れた際の演説で有名になった言葉に「ガラスの天井」という表現があります。キャリアアップにロールモデルはありますが、置かれている状況が全く同じではないので、その人にはなれません。自分の人生は自分だけのものです。自分の人生は自分で切り拓く気持ちが重要になると思っています。
西田:「ガラスの天井」と重なる部分がありますが、私はキャリアアップを目指す人たちには「手を挙げてほしい」とアドバイスしています。ある役職に対して、自分では能力が達していないと自信がなくても、チャレンジできる環境があるならば、手を挙げて良いと思っています。役職に就いて頑張ることで、その役職にふさわしい人間になっていきます。役職やポジションが人を育ててくれます。
民間企業でも高い評価 自衛隊出身者の心身のタフさ
古川:最後に、自衛隊出身者に向けてメッセージをお願いします。
新井:私は今、NPOの仕事で新しい仕組みづくりをやっていますが、上司から「自衛隊出身者はいないの?」とよくたずねられます。自衛隊出身者は、さまざまな企業や団体でも必要とされていると感じています。新しいものをつくり出す事業は達成感が大きい分、肉体的にも精神的にも大変な時期があります。その時、自衛隊で鍛えられたタフさは重宝されます。ビジネスのスキルは入社してから身に付けられるので、年齢は気にせずに40歳を過ぎても問題なく転職できます。
西田:自衛隊出身者を採用した企業は、その後も自衛隊出身者の獲得に熱心ですよね。自衛隊で身に付けた能力が評価されている証です。元自衛官だからこその責任感や誇りも民間企業で活躍できる要因だと感じています。
新井:自衛隊を離れてからも、自衛隊出身の肩書きを背負って働きますからね。その名に恥じない仕事をしたいという思いは全ての原動力です。
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