キャリアコンサルタントに転身した元女性自衛官 民間企業に転職したワケと転職成功のカギ

自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする「Catapult」は、民間企業で活躍する元自衛隊の方々をシリーズで紹介。男性だけではなく、女性も自衛隊で得た知識や経験を民間企業で活かしています。今回は、防衛大学校女子3期卒業の元航空自衛官で、現在は、「縄文アソシエイツ」でキャリアコンサルタントを務めている西田千尋さんにお話を伺いました。キャリア形成や人生設計に悩んでいる自衛隊出身者は必見の内容です。

目次

プロフィール

西田千尋:防衛大学校42期(女子3期)卒業の元航空自衛官。自衛隊に24年間勤務。総務人事を主に担当し、航空自衛隊初の託児所開設にも尽力した。し、2021年に人材紹介の民間企業「縄文アソシエイツ」に転職。キャリアコンサルタントとして活躍している。

古川勇気:2024年7月にBallista入社。翌月からスタートした自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする事業「Catapult(カタパルト)」を担当。防衛大学校卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。

航空自衛隊24年間の勤務で身に付けたマネジメント


古川:西田さんは防衛大卒業後、航空自衛隊で勤務されています。在職中どんなことが印象に残っていますか?

西田:色んな思い出があります。20代の頃は、人間関係の築き方、マネジメントを学んだ経験が財産になりました。防衛大卒業してすぐに初級幹部となった私の、部下にあたる方々は父親くらいの年齢です。求められている能力と自分の実力の差に悩んだ時期もありました。まだ女性の小隊長がほとんどいない時代に試行錯誤しながら、成長させてもらいました。

古川:男性中心の社会で女性が年齢差のある男性をマネジメントするのは非常に難しかったことと思います。どのような心掛けをしていましたか?

西田:私の方が階級は上でも、絶対に命令口調を使わないと決めていました。個々のキャリアや年齢を尊重して敬語を使っていました。それから、自分のキャラクターを知ってもらうために自己開示して、短い時間でも全員と毎日必ず話していました。そして、分からないことは当然調べますが、知ったかぶりをしないことも大事にしていました。ベテランの人たちには見抜かれてしまいますから。上手くマネジメントするには、いかに周りから「この人を支えたい」と思ってもらえるかだと思っています。人と人との関係ですからね。

航空自衛隊初の託児所開設 広がった視野と人脈


古川: 20代でマネジメントを学べるのは幹部自衛官の恵まれている点ですよね。自衛隊に勤務していた頃の後半、中級幹部時代に担当されていた業務を教えてください。

西田:入間基地で航空自衛隊初の託児所をつくりました。保育業者を選別して、どんな保育園にしていくのか、コンセプトから完成まで担当できたのは転機になりました。

古川:民間企業の事業企画のような仕事をしていたんですね。初の試みとなると、苦労もありましたか?

西田:隊員の理解を得ることに最も苦労しました。中央で託児所をつくる意思決定をしても、部隊の人たちにとっては子どもとは言え、部外者が出入りするわけです。基地内に新しく託児所ができれば、それまでと雰囲気が変わって違和感を抱く人も少なくありません。色んな方々の協力を得て、根気強く説明して理解を深めていきました。

古川:苦労した結果、成果を得られましたか?

西田:頑張った甲斐があって、託児所はいっぱいになりました。最初は子どもを預けるのであれば、基地の中よりも外部の保育園を選ぶ人が多かったのですが、自衛隊特有の悩みに直面している人もいました。自衛隊は24時間、365日、何かあったら活動します。「子どもがいるから動けない」と言えない状況を解消したいと思っていた人たちは組織のサポートを歓迎し、次第にニーズが高まっていきました。基地内にある託児所はお子さんに何かあった際に内線で連絡が取れますし、すぐにお迎えにも行けます。仕事の状況によっては、「もう少し預かってください」と時間の延長を頼みやすい面もあります。

「任して任せず」 自衛隊時代の上司からの学び


古川:航空自衛隊初の託児所設置という大きな仕事を経験したことで、どのような学びがありましたか?

西田:「任して任せず」の大切さを上司から学びました。当時の上司は私のキャラクターをよく分かっていて、託児所の事業を一任してくれました。ただ、放置するわけではなく、進捗状況を確認してアドバイスしたり、私と上司の役割を整理して、私が動きやすいようにしたりしてくれました。その後の自衛隊生活や民間企業に移ってからも、この上司から教わったことはマネジメントの基本にしています。

また、託児所の設置では各所で調整が必要だったので、広い視野を持って、それぞれの課題を解決するためには誰の力を借りれば良いのか判断できるようになりました。20代の頃は周りの人たちを頼って組織やチームをつくっていましたが、年齢を重ねてからは、自分の立ち位置を考えて周囲の強みを生かす方法を追求していました。

「自分が一番やりたいこと」を求めて民間企業に挑戦


古川:西田さんは自衛隊の中で着実にキャリアを重ねられてきました。なぜ、民間企業への転職に挑戦しようと考えたのでしょうか?

西田:民間企業への転職が前提というより、自分の人生を想像した時に、民間企業に行くことが1つの選択肢になりました。自衛隊には仲間がいますし、年収を含めて安定した生活を送れます。56、57歳で現役を終えますが、セカンドキャリアも準備してもらえます。その中で、65歳くらいまで働くとした場合、自分にとって何が一番大切なのかを考えました。ずっと悩んだ結果、「人のキャリアに伴走する仕事がしたい」という答えにたどり着きました。自分がやりたいことを最優先して転職を決めました。

古川:どんなきっかけから、人のキャリアをサポートする仕事に魅力を感じられましたか?

西田:航空自衛隊に託児所をつくる事業を進めるにあたって、保育園の研修に行ったり、建築会社を訪問したり、様々な人たちと交流する機会がありました。この時、世の中には色んな仕事があると初めて知りました。同時に、育児と仕事の両立は、消防士や警察官など公安系と言われる職場にいる女性の共通の悩みだと知り、「公安系女子の会」を立ち上げて情報共有する場をつくりました。ネットワークが広がっていくと、自衛隊出身者の能力が民間企業では生かし切れていない現状が分かりました。自衛隊出身者が民間で活躍するには企業理解と自己理解が不可欠だと感じるようになりました。そして、この企業理解と自己理解の「通訳」になりたい、自分ならできるのではないかと考えました。結果的には自衛隊への恩返しにもなると思って、人材紹介の企業「縄文アソシエイツ」への転職を決めました。

人脈が財産に 悩んだ時に心強い相談相手の存在


古川:転職先の選び方として、自分のやりたい仕事内容を決めてから縄文アソシエイツを見つけたのでしょうか?それとも、縄文アソシエイツと出会って、事業内容に興味を持ったのですか?

西田:自衛隊では総務人事を中心にキャリアを重ねていたので、民間企業で経験を生かすのであれば、組織開発や人材育成・教育かなと思っていました。その頃、縄文アソシエイツの方と話す機会があり、キャリアコンサルタントの仕事に興味を持ち、実際に勤務しているキャリアコンサルタントとも面談させてもらいました。「この会社なら自分を高められる」、「このメンバーに加わりたい」という気持ちが膨らんで入社を決断しました。

古川:民間企業への転職に成功した理由を、どのようにお考えですか?

西田:成功したかどうかを振り返るのはまだ先になりますが、自衛隊時代からコミュニティを通じていろんな友達や知り合いを増やしたところが良かったと思っています。人との出会いを通じて自身のキャリアの棚卸ができましたし、縄文アソシエイツと出会う縁もありました。転職ありきではなく自分の人生を考えた時、組織の中と外、どちらにも幅広く友達をつくることは人生の財産になります。

民間で楽しむ秘訣は「自衛隊との違いを受け入れる」


古川:民間企業と自衛隊でギャップを感じた部分はありましたか?

西田:自衛隊はリスク管理が120%なのに対し、民間企業はコスト管理が圧倒的です。管理の種別が異なるため、スピード感の違いに驚きました。自衛隊は職域や権限が明確で、自分に与えられた範囲内でベストを尽くします。一方、民間は範囲がはっきりとは決まっていないので、最初は自分がどこまで担当すれば良いのか分からずに戸惑いました。民間では「来た球を自分で捕りにいく」イメージです。そうしないと、指示待ちと判断されてしまいます。

古川:私も自衛隊出身者から「球を自分が捕って良いのか分からない」という相談をよく受けます。自分に権限があるのか迷ってしまうんですよね。

西田:自衛隊の時は、自分が担当した業務を上司が確認して、さらに上の役職の人が見るという形で段々と洗練されていきました。今の会社では、走りながら考えていきます。自衛隊と民間企業のどちらが良い悪いではなく、仕組みの違いを受け入れると、民間でも心地良く働けるはずです。常に集団で動く自衛隊と異なり、民間企業では個々で動くケースも多くなります。私は最初、「自衛隊の時は全員でいつも助け合っていたのに」と寂しくなりました。これも文化の違いと理解してからは、裁量を与えられて必要に応じて同僚や上司と協力するやり方に楽しさを感じています。

古川:民間企業ならではのやりがいや楽しさがあるんですね。今後の目標はありますか?

西田:キャリアコンサルタントの仕事は、面談で相手の人となりを把握して、個々人に合った職場を紹介することが業務です。自衛隊時代に全員と毎日話をして、自己開示しながら信頼関係を深めた経験が生きています。求職者と企業、相性の良い組み合わせをつくり出せるコンサルタントになりたいです。

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この記事を書いた人

2024年7月にBallista入社。8月からスタートした自衛隊出身者のネクストキャリアをサポートする事業「Catapult(カタパルト)」を担当。防衛大学校卒業後、入社試験時の適性検査を販売する企業で営業職などを経験。人材獲得や入社後のミスマッチに課題のある会社の内定率向上や離職率低下に貢献した。

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